男だけのバンドをやることになったのはいつぶりであろうか。
思えば初めてその男に会ったとき、彼は金髪振り乱し、スタジオのロゴが入ったジャージを着ながら、独特の甲高い声で気さくに笑いかけてきた。それを愛想が良いというのかはわからない。
次に彼と会ったときは、ライブハウスの楽屋で熟睡していた。
後日談では、彼が起きた時、当時のメンバーすら誰も居なかったという。
その次に彼を見かけたのは吉祥寺駅前の駐車場だった。
スイカみたいな帽子をかぶり、派手めな服装で電話をしていたのだが、すぐにわかった。スイカ畑にいるほうがよっぽど見つけみくい格好だ。
その次にあった時、彼は黒髪になり、無職になっていた。
今年の頭の、大雪が降ったライブハウスフロアでの、顔合わせの時のことだ。
遠い世界、という歌を歌っていた。
素敵な曲だと思った。
美しい歌だと思った。
ここ一週間の間で、俺は三回ライブをやった。
しかも全部、昔スイカ帽子をかぶっていた男の歌声と共に。
俺は歌を歌わなくなった。
その男があまりにも心地よい歌を歌うからだ。
スタジオでは頻繁にハードルをあげてくる。
一回曲を通すごとに、その男の求めるものが異常なほど上がるのだ。
いつか、メンバーが死んじゃうじゃんかってくらい。
それが俺たちの名前だ。